Yamakatsu's diary

男は黙ってカント

人間の進歩について

「かつてヨーロッパにおいてペストが流行したことが何度かある。そのたびにそれはユダヤ人が広めたといった説明がなされた。現在はペスト菌をもったネズミが存在することが知られている。そして、ノミがそのネズミの血を吸った際、一緒にペスト菌も吸い込み、かつ、そのノミが人間の血を吸い、人間の体内にペスト菌が侵入した場合、発症することが分かっている。これは科学の進歩であり、人間の進歩である」といった話を聞いた。

 それを進歩と呼んでしまう人間のナイーブさに萎えた。

確かに科学的な説明原理は発展している。だが、ペストの流行という結果に対して、その原因を措定するという説明原理は何ら変わっていない。かつて、ペストに対する恐怖が日本に蔓延したとき、東京において、ネズミを殺して持って行ったら一匹につき◯円支払うと公共団体が通告したがゆえに、何百万匹というネズミが殺されたらしい。ペストの原因をユダヤ人とし、ユダヤ人を殺したかつてのヨーロッパ人とどこに差異があるのか。かつてのヨーロッパの説明原理を非合理的、現在の説明原理を合理的であるという「正しさ」はどこにあるのか?私がナイーブであると感じたのはそこである。

我々は因果関係によって事態を理解した気になる。しかし、因果関係は複雑な現象を分かりやすく説明するためのものに過ぎず、「事実」とは異なる。そして、「原因」として措定された人、物はネズミやユダヤ人のように迫害を受ける。職場の空気が悪いのは上司がしっかりしていないからだ。私がこんななのは親のせいだ等々。我々はそういったかたちで、迫害者を創る。

そんな説明原理に縋っているかぎり人間は絶対に進歩しない